เข้าสู่ระบบ「……わかりました」
「よろしい」
瓢社長がほんの少し笑った。
「送ります」
「え?」
「ちょうど外出予定があります。まず病院へ行きましょう」
「そんな、社長にそこまでしていただくわけには……」
「では、一人で病院へ行けますか?」
「…………」
「行けませんね」
「……はい」
完全に見透かされている。
「遠慮しないでください」
その言葉が、不思議なくらい胸に沁みた。
前の人生では、誰にも頼れなかった。
いや、違う。私は誰にも頼ろうとしなかった。
だったら二度目の人生は、もっと違う自分で生きてみたい。
陽奈との生活を、やり直せる。
これはきっと、陽奈を大事にしなさいという神様からの警告なんだ。社長に病院へ連れて行ってもらうと、診断は夏風邪と過労だった。
点滴を受けて少し休むと、ずいぶん身体が楽になった。
「相沢さん」
病室を出ると、わかりやすい場所に社長が座っていた。「えっ、もしかして、待っててくださったのですか!? お仕事は!?」
「いえ、ちょうど相手がキャンセルを申し出ましたので、予定が空いたのです」
……本当かな?「相沢さんは、確かお子さんがいましたよね」
「はい。四歳の娘がいます」
「保育園ですか?」
「はい。これから迎えに行きます」
「送りましょう」
「えっ」
「そのために待っていました。社員が困っているのに、見捨てさせるつもりですか?」
「……ありがとうございます」
前の人生では知らなかった。この人って、こんなに優しかったんだ。
瓢社長の車で保育園へ向かう。
「ママー!」
陽奈は、私の姿を見るなり園庭から走ってきてくれた。
陽奈。
生きている。元気に走っている。「陽奈……!」
気づけば私はその小さな身体を強く抱きしめていた。
「ママ?」
「陽奈……陽奈……!」
「ママ、いたいよぉ」
「あっ、ごめんね!」
慌てて力を緩める。
でも、涙は止まらなかった。
「ママ、ないてるの?」
「ごめんね……これは、嬉しいの」
「どうして?」
「陽奈に会えたから」
「へんなママー」
陽奈が笑った。
その笑顔を見ただけで、また涙が出そうになる。
もう二度と、この子を残して死んだりしない。
「ママ、このおじさん、だれ?」
「ママの会社の社長さんよ」
陽奈が瓢社長を見上げた。
「しゃちょうさん?」
「こんにちは、陽奈ちゃん」
瓢社長は膝を折り、陽奈と同じ高さまで目線を下げた。
「ママを病院へ連れて行ったから、今日は一緒に迎えに来たんだ」
「ママ、びょうきなの?」
「もう大丈夫だよ」
「しゃちょうさんが、なおしてくれたの?」
「僕じゃなくてお医者さんが――」
「しゃちょうさん、ママをなおしてくれてありがとう!」
ぺこり。
陽奈が頭を下げた。
「……どういたしまして」
瓢社長の表情が柔らかくなる。
その顔を見て驚いた。
会社では見たことのない顔。というのも、彼はネオリンクカンパニーの代表を務めている。一般社員の私達とは関わることがほとんどない。
遠目に見ても、いつも難しい顔をしていたイメージしかない。そして、もっと驚いたことが起きた。
「あら、陽奈ちゃんママ」
迎えに来ていたママ友が、私と瓢社長を交互に見る。
「もしかして……新しい旦那様?」
「違います!!」
思わず即答した。
「……ママぁ」 頬をつんつんと突かれた。「ん……?」「ママ、おきてぇ」「……陽奈?」 ゆっくり目を開ける。 カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいた。 もう朝なんだ。 あれから、ぐっすり眠れたみたい。「ママ、おはよ!」「おはよう、陽奈」 私は身体を起こそうとして……「……あれ?」 動けない。どうして? 腰のあたりに、何かが……。 そっと視線を下ろすと、大きな腕。 ……腕? えっ!? 慌てて振り返ると、すぐ後ろに真人さんの寝顔があった。「…………っ!!」 ち、近い!! 近すぎる!! そうだった。昨夜、三人でくっついて寝たんだった! でも、まさか朝までこのままだったなんて! 真人さんの腕が、私と陽奈を包み込むように回されている。 私はすっかり、真人さんの胸に背中を預けていた。 しかも私の手が、真人さんの服をぎゅっと握っている。 ……え? ちょっと待って。 これ、私が離さなかったってこと!?「ママ?」 陽奈が不思議そうに首を傾げる。「おかお、あかいよ?」「えっ!?」「おねつ?」「ち、違うよ!」「じゃあ、どうしたの?」「な、なんでもない!」 慌てて真人さんの服から手を離
「はあっ……はあっ……!」 心臓が激しく鳴っている。 怖い。 怖い、怖い! まだ、肩を掴まれた感触が残っている気がする。 ぼろぼろと涙がこぼれる。ぎゅっと自分自身の体を抱きしめた。「葵さん!」 すぐ隣から声がした。「……っ!?」 びくっと身体が跳ねる。「葵さん、僕だよ。真人だよ」「ま、真人……さん……?」
「陽奈ちゃんを守るのは、葵さんだけの役目じゃない」 真人さんが私を見つめる。「僕にも、守らせてほしい」「……真人さん」「葵さんも、陽奈ちゃんも。二人とも大切だから」 その言葉に、胸がいっぱいになった。 大切――真人さんにとって、私たちは大切な存在なんだ。「どうして、そこまでしてくれるんですか?」 ずっと聞きたかった。 最初は、私たちを助けてくれただけだった。それなのに、家に住まわせてくれて、陽奈のことも、まるで自分の娘みたいに可愛がってくれて。「……私たち、偽装家族なのに」 そう言った瞬間、胸がちくりと痛んだ。 自分で言っておきながら、嫌な言葉。 偽装家族。 そうだよね。 私たちは、本当の家族じゃない。真人さんが優しくしてくれるのも、きっと責任感が強いから。 「……葵さん」 真人さんが、少しだけ真剣な顔になった。「僕はね、偽装だから二人を大切にしているわけじゃないよ」「……え?」「最初は、確かに守ってあげたいと思った。それだけだったけど、一緒に過ごしているうちに、気持ちが変わったんだ」 その言葉に心臓が跳ねた。「……気持ち?」「うん」 真人さんが微笑む。「家に帰ったら、葵さんと陽奈ちゃんがいる。それが、すごく嬉しい」 淋しい家に一人で帰る孤独……それはわかる気がする。 誰かが一緒にいてくれるだけで、自分のことを「お帰り」って出迎えてくれるだけで、その日いちにちが幸せになることを、私は知っている。「陽奈ちゃんが『しゃちょーさん』って駆け寄ってくれるのも、葵さんがご飯を作ってくれるのも、
「じゃあ、僕もさっそくなでなで実践してみようかな」「え?」 真人さんが陽奈の向こうから、そっと手を伸ばしてきた。 そして、私の頭を優しく撫でる。「……っ!?」「葵さん。今日は怖かったね」「ま、真人さん!?」「もう大丈夫だよ。僕がいるから」 大きな手が、ゆっくりと髪を撫でる。 ……なに、これ。 子ども扱いされているはずなのに。 どうして、こんなにドキドキするの!?「ママ、どう?」 陽奈が嬉しそうに聞いてきた。「げんきになった?」「えっ!? あ、うん……!」「しゃちょーさん、なでなでじょうず!」「ありがとう。陽奈ちゃんのおかげだね」 真人さんが笑った。 もう! 二人して、私を甘やかさないでよ。 ……でも、もう少しだけ、この手に撫でられていたい。 そう思ってしまった私は、きっと相当重症だ。「じゃあ、次は陽奈ちゃんの番だね」「ひな?」「うん。陽奈ちゃんも、今日はいっぱい頑張ったから」 真人さんが陽奈の頭を撫でる。「お買い物も上手にできたし、ママのことも励ましてくれたでしょう?」「うん!」「えらかったね」「えへへ!」 陽奈が嬉しそうに目を細める。「しゃちょーさんも、なでなで!」「僕も?」「うん! しゃちょーさんも、がんばった!」「そっか。ありがとう」 真人さんが頭を下げると、陽奈が小さな手でぽんぽんと撫でた。「いいこ、いいこ!」「ははっ。ありがとう」 ……ふふっ。
一緒に寝る? とか聞かれたせいで顔が一気に熱くなる。 真人さんがくすっと笑った。「冗談だよ」「も、もう!」「ごめん。葵さんの反応が可愛くて」「…………!」 か、可愛い!? 今、可愛いって言った!? この人、敬語をやめてから、どんどん距離が近くなってない!?「ママー!」 陽奈が私の服を引っ張った。「ひな、まんなか!」「え?」「ママとしゃちょーさんの、まんなかでねる!」「陽奈……」「だって、ふたりともだいすきだもん!」 満面の笑顔。 ああもう、そんなことを言われたら、何も言えなくなっちゃう。 真人さんが陽奈の頭を撫でた。「じゃあ、陽奈ちゃんを真ん中にしよう」「やったぁ!」「ただし、僕はベッドの横に布団を敷くからね」「くっつけて?」「うん。くっつけよう」 陽奈が嬉しそうに飛び跳ねる。 その姿を見て、真人さんも笑った。 私たちは三人で寝具を整えることにした。「しゃちょーさん、こっち!」「はい、先生」「せんせいじゃないよ!」「あれ? さっき先生になるって言ってなかった?」「いまは、ひな!」「そっか。じゃあ、陽奈ちゃん」「はーい!」 真人さんが予備の布団を運んでくる。 私も手伝おうとしたけれど、あっさり断られてしまった。「葵さんは陽奈ちゃんと待ってて」「でも、これくらいなら……」「今日はいろいろあっただろう? 少し休んで」「……ありがとう」「どういたしまして」 真人さんは手際よく布団を敷いてくれた。 ベッドのすぐ横に、一組。陽奈がその布団を
家に戻れることになったので、早速家に戻った。 もうストーカーからは連絡がない。もかちゃんは警 察に預けたし、この家に盗聴器などの類はないと信じたい。 注文した宅配オムライスの夕食をすませ、陽奈と一緒にお風呂に入った。 陽奈の保育園の話をたっぷり聞いて、お風呂から上がってパジャマになって、髪を乾かした。「しゃちょーさーん」 陽奈がタタタッと真人さんの方へかけて行った。「じゃあ、そろそろお泊まり会の準備をしようか」 真人さんが陽奈を抱っこしてくれて、そのまま私に微笑んだ。「……本当に、いいの?」「もちろん。今日は三人で寝ようって約束しただろう?」「でも、真人さんの寝室にまでお邪魔するなんて……」「葵さん」「……なに?」「遠慮禁止」「あ……」 また言われてしまった。「それに、僕だって一人で寝るより、みんなと一緒の方が楽しそうだと思ってるんだ」「しゃちょーさんも、おとまりかいしたいの?」「うん。実はお泊り会って初めてなんだ。すごく楽しみで」「ええっ!?」 陽奈が目を丸くした。「しゃちょーさん、おとまりかいしたことないの!?」「ないんだよ。だから、陽奈ちゃんが僕に教えてくれる?」「いいよ! ひな、おとまりかいのせんせいになる!」「それは頼もしいな」「まずね、おふとんをならべるの!」「なるほど」「それから、みんなでおしゃべりするの!」「ふむふむ」「それからね、ないしょのおはなし!」「秘密の話?」「そう! ママにはないしょ!」「えっ、ママは仲間外れ?」「あ、きょうはママもいっしょだ!」「じゃあ、誰に内緒なの?」







